カエデの強靭な生命力は材となっても内包され、美しい紋様を静かに湛えています。〇上記は私が楓材を仕入れているn*r*jima**yukiさんの一文。響きのいいギターを探し求めているうちに辿りついたのがこの”楓”材だ。(…表板の材質は当然問われてしかるべきだが最近になって裏板・側板の材質がモノを言うことに思い至った。ちょうどスピーカーとオーディオルームの関係に似ている。因みに私は煉瓦を手割りしてオーディオルームの一部に採用している。”楓”材に着目してからのことだ。)<”楓”の思い出>子どものころ学校から帰ると薪(丸太四つ割り)を10本斬るのが男兄弟のノルマ。イタヤはツルンツルンで骨が折れる。ズルしてナラ等の雑木を選んで切ったものだ。最後に残ったイタヤは兄貴にお任せ。イタヤカエデは嫌われ者だったがギター材としては引っ張りだこだったとは何とも皮肉な話だ。芳醇な香りは(空腹に耐えていた身には)最高だったが!(ちなみに私は12人兄弟姉妹の五男坊…。)◇さて本題のギターは?<ラベル>KAZUO HASHIMOTOThis is a production undermysupervision and guidance.1964NO.271<仕様>・弦長:647㎜・ネック幅50㎜・弦高:1弦:3.0㎜6弦:3.1㎜(簡易採寸)*弦の残り分を切り取っていないのは、弦の振幅が時として紡錘形にならずにフレットに触れて異音が出ることがあるため。その場合はナット側とブリッジ側を逆にして張り替えると解消できることが多いので、しばらく様子を見てから、切り取っていただきたい。弦は調整用ですので、お好みの弦に張り替えを。◇初期の頃のオール単板。まだ良材が豊富な時代の贅沢なつくりだけあって、よく鳴っている。◇ネックの握りが小さめで、小さな手には弾きやすい。遠達性はないが、つま弾くあるいは弾き語りに向いている。◇楓虎杢の良材が織りなす魅力的な響きを持つ本品を見捨てるのはもったいないので、外観には目をつぶってかわいがってやっていただきたい。◇さわやかな’琴線に触れる’響きは不変。どのナンバーにも共通しているのは、HASHIMOTOギターが生産された期間が、ごく短かったからであろう。◇オリジナルを生かしたかったがペグだけは如何としがたく、32㎜なので独立型で代用した。◇疵、汚れがあるが「響きがよければいい」という方には、うってつけの一本。◇私が扱うのはHASHIMOTOギターが多いのだが、最近お目にかかった、発売時のままのビニルカバーに、「よく鳴る」とプリントされているのを知って、なるほどと頷いた。これこそが、HASHIMOTOギターにふさわしいキャッツフレーズだ、と。◇もう一つ’琴線に触れる’というのも、言い得て妙だ。◇さらにネックに狂いが出たHASHIMOTO ギターはめったに見られないのも、驚異的だ。これからも保管さえしっかりすればあと半世紀も無事だろう。◇奇を衒うことなく、必要最小限のシンプルな構成が、逆に説得力のあるサウンドを生み出している。半世紀以上も前の作品とは思えない程しっかりした筐体を保っているのも、”震電”プロペラ設計者のなせる技というべきか。木がどうなりたがっているかを知り尽くした職人の技というべきか。